2019年10月10日木曜日

球状化焼鈍しの重要性


 焼入れ時の炭化物のピン止め効果については以前何度か書いた。炭化物の球状化焼鈍しが重要なんだ。
焼入れは基地の鉄をオーステナイトに変態させ、炭化物を分解して基地に溶け込ます必要がある。
結晶粒界に炭化物が残ってると杭の様になって、隣同士の結晶粒が合体しにくくなる。

 焼入れ温度を上がるか保持時間を長くすると、炭化物は溶けてなくなっていく。
ピン止めの効果がなくなり、結晶粒が粗大化してくる。











炭化物が完全に溶けてしまうと、オーステナイトの結晶粒はとても大きなものになる。完全にオーバーヒートな状態だ。


前にも書いたが過共析鋼の場合、焼き入れはA1線とAcm線の間で行うべきだ。
Acm線を越えて炭化物を全て溶け込ませてしまうと3枚目の絵の様になる。
過共析鋼の場合、炭素量が多いほど焼入れ温度の幅が広がるので、焼き入れはしやすくなる。但し硬く伸びにくくなるので、鍛造はやりにくくなるが・・・

炭素はどのぐらい溶け込ませればいいのか?
この図はよく見られるものだが、これの横軸はマルテンサイトに固溶した炭素量を本来は示している。鋼の炭素量ではない。
マルテンサイトへの炭素の固溶量が多すぎると組織が脆くなる。せいぜい0.6~0.7%程度までにするべきだ。

基地のオーステナイトに溶け込ませる炭素量は温度によって決まってくるが、それにはある程度の時間が掛かる。炭素鋼でも保持時間は10分近く必要な場合もある様だ。
前に書いたがコークスや炭を使った火床の場合、加熱温度を高める事で保持時間を短縮しているのだと思う。さすがに火床で温度を一定に数十分保つのは難しいし、何より作業効率が悪くなる。

焼入れはおそらく高めに加熱して炭素量を必要十分に溶け込ませ、炉から取り出し色合いを見てタイミングを計って冷却に移るのだと思う。
ある程度炭化物が溶け残っている状態ならば、そこからA1線を下回らない(下回ると基地にフェライトが出てくる)範囲で徐冷すれば、吐き出された炭素は溶け残った炭化物を核に取り込まれて成長するので、元の球状炭化物に戻る。

ところが過熱しすぎて炭化物が残っていない状態だと、吐き出された炭素はオーステナイトの結晶粒界に沿って炭化物が成長する。いわゆる網状の初析炭化物だ。
硬い炭化物が結晶粒界に沿ってできるので、非常に脆い組織になる。

炭化物を球状化して大きさと分布状態を揃えるってのは重要な事なんだ。
大きさや分布が不揃いだと、部分的に炭素の固溶量に濃淡が生じて焼き割れの原因にもなると思われる。



0 件のコメント:

コメントを投稿